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2021.11.10セイアンアーツアテンション14「Re: Home」展覧会レビュー(平田剛志/美術批評)

Re:Re:Home 新しい「Home」の様式

 

 

 「Home」は一つではない。その意味は、建築物としての住宅だけでなく、家庭や家族、故郷や故国など幅広い意味を持つ言葉だからだ。だが、2020年からの新型コロナウイルスの世界的流行によって「Home」のあり方は大きく変化した。では美術や造形表現において、「Home」とは何だろうか。学校法人京都成安学園創立100周年記念として成安造形大学【キャンパスが美術館】の計8か所を会場に開催される展覧会「Re:Home」は、「Home」をテーマにした展覧会である。出品作家は、AKI INOMATA、岩名泰岳、ふなだかよ、松井沙都子の4名に成安造形大学・成安造形短期大学コスチュームデザインコースの卒業生、在学生の作品が展示された。以下では、それぞれの「Home」とは何かを見てみたい。

 

■住処

 ギャラリーアートサイトで展示をしたAKI INOMATAにとっての「Home」は「住処」である。

 展示された《girl. girl. girl . . . 》(2019)は、枯れ枝が活けられた花瓶や鏡、ワンピースやスカートを着たマネキンが並び、ファッション展示のようだ。だが、仔細に見れば、ミノムシが衣服のハギレを素材にして作ったミノ(巣筒)とその記録映像や写真なのだ。INOMATAは、ミノムシの幼虫が小枝や葉など身の回りの繊維で巣筒をつくる習性を利用して、ブランドのハギレをミノムシにまとわせ、「ミノ=服」を着させたのである。INOMATAは、虫と人間における「服=Home」、自然と人工、生態と制作の概念を対比させ、服を着ることと見せること、選ぶこと、服の機能や意味とは何なのか、根源的な思考へと導く。

 

【キャンパスが美術館】ギャラリーアートサイト|AKI INOMATA|会場風景

 

■家族と様式

 ライトギャラリーでは、ふなだかよと松井沙都子の二人が展示をし、対照的な展示を見せた。

 ふなだの「Home」とは、「家族」である。グリーンサラダやカレーライスが山のように盛られた写真《Mt.love》(2012)には、見えない母の過剰な愛が溢れる。一方の写真《fall》は、母親となった作家が、娘が使用していたエプロンや哺乳瓶などの身の回りの品々を落とす様を捉えた写真だ。いずれの写真も母娘の関係性を主題にしているが、ライフステージの変化によって、写真の対象や時間性が変化している。ふなだにとって写真は、変化、成長する「家族」の関係性を記録する装置なのだ。

 

【キャンパスが美術館】ライトギャラリー|ふなだ かよ|左手《for you》シリーズ 右手《Mt.love》シリーズ

 

【キャンパスが美術館】ライトギャラリー|ふなだ かよ|《fall》シリーズ

 

 対して、松井の「Home」は「様式」である。台座のような台にカーペットが敷かれ、天井から下がる照明器具が何もない空間を照らす《ホーム・インテリア(床・照明)》(2021)、壁紙が貼られた正方形の木材の外周に照明器具を埋め込み、壁面を照らす平面作品《ホーム・インテリア(壁・照明)》(2021)は、まるでミニマル絵画やコンセプチュアル・アートのようだ。松井の「Home」には家としての機能や生活の痕跡、人の気配はない。何もない「ホーム・インテリア」は、モデルハウスが暮らしの幻影を与えるように、観者の中にある家の経験を照らし出すアーキタイプ(原型)なのかもしれない。

 

【キャンパスが美術館】ライトギャラリー|松井 沙都子|会場風景

 

■コミュニティ

 ギャラリーキューブで展示した岩名泰岳にとっての「Home」とは「コミュニティ」である。

 岩名は、成安大を卒業後にドイツで絵画を学び、2013年に故郷の三重県伊賀市島ヶ原に戻った。その地で、文化芸術集団の島ヶ原村民芸術〈蜜ノ木〉を結成し、過疎化していく土地と関わりながら、絵画制作を行っている。岩名の絵画は、故郷の自然や村の歴史を着想とした抽象絵画だ。大地を思わせる土俗的な色合いと筆触は、描くというより土地の記憶を「記す」という感覚が近いかもしれない。本展では岩名の絵画だけでなく、〈蜜ノ木〉メンバーによる屋外看板、〈蜜ノ木〉での活動を記録した写真や書簡、同地出身の画家奥瀬英三の絵画を用いた郵便はがきなども展示され、土地とコミュニティと絵画の「つながり」を示した。

 

【キャンパスが美術館】ギャラリーキューブ|岩名 泰岳|会場風景

 

【キャンパスが美術館】屋外展示|岩名 泰岳|屋外看板《蜜ノ木のしるし》

 

■学び舎

 「Home」である大学の特色を示すのは、成安大のコスチュームデザインコースを「学び舎」とした卒業生たちによる服飾やテキスタイルアートの展示である。学園歴史資料室では岩崎萌森が自作の木枠機によって織った服飾・染織作品を展示し、織る、編む、結ぶという単純な行為から生まれる複雑な造形や構造を見せた。

 

【キャンパスが美術館】学園歴史資料室|岩崎 萌森|会場風景

 

カフェテリア結では、衣服を環境から身を守る「家」と捉えた服飾作品が展示された。素材にステンレスメッシュや布の端部、髪の毛、鯉のぼりを用いるなど、服飾の革新性や創造性を印象づける。

 

【キャンパスが美術館】カフェテリア結|会場風景

 

スパイラルギャラリーでは、衣服を超えたアート表現を展開する現代作家と学祖瀬尾チカによる「開襟シャツ」の図面をもとに在学生が復刻制作したプロジェクトが展示された。

 

【キャンパスが美術館】スパイラルギャラリー1F|会場風景

 

【キャンパスが美術館】スパイラルギャラリー2F|会場風景

 

 

 以上のように、本展は「Home」の多様な意味を家政学的に考察する展覧会だったが、その背後には「時間」があった。評論家の多木浩二は「家と人間が結びつくのは時間によってである。あるいはこの結びつきという出来事のなかに時間があらわれるのである。」※1 と書いた。家を「Home」と読み換えても、その意味は大きくは変わらないだろう。住処や家族、様式、地域、学校との結びつきには、「時間」がいるからである。学祖瀬尾チカが1920(大正9)年に京都市に成安裁縫学校を創立して100年、学生は大学で4年間学び卒業し、ミノムシや人は「服」を選び装い、地域や家、家族とつながり、「Home」を作ってきた。そもそも学校名の「成安」とは、成し遂げること、安寧を意味するという。瀬尾チカにとって学校とは、安寧の「Home」を成し遂げるための場だっただろうか。だが、コロナ禍や災害、過疎化等によって「Home」をなくす人もいる。対して、本展の出品作家が示すのは、「Home」は自分で作ることができるという、ホームメイドの可能性だった。この「Home」が今後どのようになるのか、その変化を見続けていきたい。

 


※1 多木浩二『生きられた家 経験と象徴』岩波書店(岩波現代文庫)、2001年、216頁。

 
 

美術批評 平田剛志 
(2021.11.03)
 
会場撮影|守屋 友樹
 
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