村にやって来たのは10才の頃だった。
村祭りに参加できるのは決められた家の子たちで、地縁血縁の結びつきが何よりも強い集落で自分の居場所を見つけるのは簡単ではなかった。
やがてその村も解体された。
大人になったらこの場所の景色を変えようと思っていた。
村に帰って来たとき、「これからは田舎の時代だ!」とだれかが言った。
いろんな街から人が集まり、素朴な運動のようだった。
いつまでも家に縛られ、働く場所も選べない村の若者たちもささやかな夢を見ていた。
子供の頃には加えてもらえなかった祭りも担うようになった。
数年後、彼らの多くは村を離れ、僕は集落に残るひとりになっていた。
村で絵を描いていると、古い写真や新聞記事を譲り受けることがよくある。
戦前、村の青年団が文芸活動を行い、町の洋画家たちは展覧会を開いていたらしい。
彼らは何かを変えようとしたのかも知れないが、現在それを知る人はほとんどいない。
僕が今描いているもの、営んでいることは、忘却されていく<家>の風景でもある。
2021年7月 島ヶ原にて
(岩名 泰岳)
コミュニティとしての「HOME」
岩名泰岳は、デュッセルドルフ美術アカデミーで学んだ後、故郷の伊賀市島ヶ原を拠点に活動をしています。2013年に地元の有志と共に文化芸術集団として島ヶ原村民芸術〈蜜ノ木〉を結成し、地方の集落の現実に直面しながらもそれぞれの分野で戦う若者たちの創造的な行為をアートとして発信してきました。そして岩名自身もまた、故郷の自然や村の信仰をモチーフとした絵画を制作することで、現在の「故郷=家」の在り様を考えさせてくれます。失われていく「故郷」と、そこで受け継がれながら変化していく「コミュニティ」の可能性から、これからの「家」の形について考えます。
(キャンパスが美術館)
撮影:株式会社 KYO-ZON
岩名 泰岳| Iwana Yasutake
1987 三重県生まれ
2010 成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス 卒業
2010-2012 デュッセルドルフ芸術アカデミー(ドイツ)で絵画を学ぶ
2013 <蜜ノ木>結成 三重県伊賀市島ヶ原在住
主な個展
2021 「みんなでこわしたもの」(タグチファインアート/東京)
2019 「道標」(タグチファインアート/東京)
2017 「<七ツノ華>より」(ギャラリーあしやシューレ/兵庫)
2017 「巡礼」(タグチファインアート/東京)
2016 「オイテケボリノキミニキセキヲ」(ギャラリーほそかわ/大阪)
2015 「観音山」(MA2ギャラリー/東京、Mizuho Oshiro ギャラリー/鹿児島)
2014 「土の骨・星の花」(SENSARTギャラリー/三重)
2013 「田ノ獣/森ノ花」(ギャラリーあしやシューレ/兵庫)
2012 「Universum」(reinraum e.V/デュッセルドルフ、ドイツ)
主なグループ展
2020 「Summertime Blues」(CADAN有楽町/東京)
2020 「ステイミュージアム」(三重県立美術館/三重)
2019 「いのち耕す場所ー農業がひらくアートの未来」(青森県立美術館/青森)
2018 「くずれる家」(Iwana_Mitsunoki Studio他/三重)
2015 「kiseki -キセキ-」(観菩提寺客殿/三重)
2015 「三重の新世代2015」(三重県立美術館/三重)
2014 「奈良・町家の芸術祭はならぁと」(工場跡/奈良)
2014 「蜜ノ木 -祭の後の異人たち-」(旧アトリエ河口/三重)
2013 「KISS THE HEART #2」(伊勢丹新宿/東京) 2013 「郵便夫と森の星」(旧アトリエ河口/三重)
2012 「Back from Japan」(HPZ-Stiftung/デュッセルドルフ、ドイツ)
2010 「アートアワードトーキョー丸の内2010」(行幸地下ギャラリー/東京)
主な受賞
2020 第19回三重県文化新人賞 2016 第1回三重テレビ大賞
2010 アートアワードトーキョー丸の内2010 準グランプリ
主なコレクション
三重県立美術館
タグチアートコレクション
《一里塚の旅》
2017/530×455mm/油彩、キャンバス/Photo by Hana Sawada
《人間より獣》
2017/530×455mm/油彩、キャンバス/Photo by Hana Sawada
《光輝ある農村生活》
2017/530×455mm/油彩、キャンバス/Photo by Hana Sawada
《蜜ノ木ロゴ》
2012/デザイン:岩名泰岳 Courtesy of Mitsunoki