『枕草子』にも登場するミノムシは、日本では古くから馴染み深い昆虫です。ミノムシの幼虫は、小枝や葉などの身の回りのもので巧みに巣筒をつくる習性があります。作品《girl. girl. girl . . . 》は、ミノムシが衣服のハギレを素材にミノ(巣筒)をつくったものです。ミノムシは口から出す糸で素材をかがりつけるように繋ぎ合わせ、少しづつミノを大きくしていくことで、自身の身体のサイズに合わせたミノを作ります。まずINOMATAはこうしたミノムシのクリエイティビティに着目しました。同時にミノムシによってつくられたカラフルなミノを通して「装うこと」について考えをめぐらせています。「何を着るか」は個々の意思や嗜好だけでなく、異性へのアピールもしくは眼差しへの抵抗、その土地の文化やジェンダーなど、様々な影響も受けるでしょう。また、憧れの服があっても身体的に着れない場合、経済的に手が届かないこともあります。衣服は生活の必需品ですが装いを楽しむ事もできます。装うことの意義や楽しさはどこからきているのでしょう。
※本作品は日本に古くからある子供の遊びであるミノムシの着せ替え(ミノムシに色紙や毛糸を与えてミノを創らせる蓑遊び)を参考にしています。
(AKI INOMATA)
住処としての「HOME」
AKI INOMATAは生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示します。本展で展示される《girl. girl. girl . . . 》は、衣服のハギレを素材に作られたミノであり、INOMATAとミノムシの協働によって生みだされる色鮮やかな家とも言えます。また、ミノ(=家)と一生を共にするミノムシに、作家が手を加えてその枠組みに変化をもたらそうとするその姿勢は、本学学祖瀬尾チカが裁縫技術を通して新しい女性像を提示しようとしたことと重ねて見ることもできます。現代の衣服や家は現代社会においてどのような枠組みを規定し、またどのような工夫によって解放できるのかを再考させる、本展を象徴する作品となります。
(キャンパスが美術館)
衣装協力:VIVIENNE TAM、SOMARTA、UN3D
モデル撮影協力:朝岡英輔
展示技術:宮路雅行
展示協力:片岡周介
撮影:株式会社 KYO-ZON
AKI INOMATA
アーティスト。
1983年生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。
東京都在住。
2017年アジアン・カルチュアル・カウンシルのグランティとして渡米。
生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。
ナント美術館(ナント)、十和田市現代美術館(青森)、北九州市立美術館(福岡)での個展のほか、2018年「タイビエンナーレ」(クラビ)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」トリエンナーレデザイン美術館(ミラノ)、2021年「Broken Nature」MoMA(ニューヨーク)など国内外で展示。
2020年「AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき」(美術出版社)を刊行。
参考作品
《進化の考察#1:菊石(アンモナイト)》
2016-2017/アンモナイトの化石、樹脂、ビデオ
アンモナイトCTスキャンデータ提供:有限会社ホワイトラビット/3DCG制作協力:オサガワ ユウジ
《貨幣の記憶》
2018〜/ミクストメディア
《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》
2009〜(進行中)/ヤドカリ、樹脂、水槽装置一式、ビデオ、写真
《インコを連れてフランス語を習いに行く》
2010/ビデオ
《犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう》
2014/人間の髪の毛で出来たコート、犬の毛で出来た人間のコート、2チャンネルビデオインスタレーション