泉は大きな音を上げ水をうむ。
はじけわれる音は産まれ出でる声、そして消えゆく合図、はじまりと終わりの紋様。
三井寺に湧き出る閼伽井屋の泉。
その水は日本の3帝の産湯に用いられたという。
産湯 ー 日本の神道の儀式。
この世に産まれ、初めて入る湯水。3日目の湯を産湯とすることもある。
私は意識を向けた。有史以前の原始のころ、形式ばった儀式も歴史もないそこに。
山から水が流れ入り、滾滾と力強く湧く泉の岩場、
いつまでも水面に波紋がうまれ、生命に満ちた水とそこにいるものたち。
太古の霊 ー いま目を覚まし、大きな音を立て飛んで行く。
彼は幾何学模様の美しい残骸を残した。
前田 征紀は、美術作家活動と並行してCosmic Wonderを主宰するなど幅広い活動を行っている。
神秘思想からシュタイナーの神智学に興味を持ち、日常生活における自身の体験とその体験を通して得たイメージや記憶を立体、写真、映像、光の波長や音響を用いたインスタレーションなど多様なメディアで表現してきた。
本展では新作2点を発表する。《AAWAA- Ancient Light》は、三井寺の名前の由来ともなった「三井の霊泉」の湧き水の音をリアルタイムで展示会場にまで飛ばし、その音の振動によって会場に設置された桶の中に水の波紋を広げるというインスタレーションだ。神聖な湧水の音の波長を再現する事で、そのエネルギーを感知可能にする試みだ。会期中の10月中旬に開催されるパリの現代アートフェア「FIAC」でも同作品の展示が行われる予定である。《AAWAA》は、三井寺の孔雀の檻の中に神智学に基づいた幾何学形のモビールを設置して孔雀との交流を試みるもので、野生の営みを通じて、信仰というものについての再分析を促す。